やまやさん

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私の友人の山屋に、大きな壁を登る前に「もしだめなら壁の前で敗退するから・・・・」と言ったらぶっ飛ばされそうな勢いで怒られた。
そんなことを言う奴と登りたいと思う人間はいない。
死に物狂いで登るのに、そんなモチベーションでは自分まで殺されてしまう。

登る目標を決めたら、そこに向けてトレーニングする間は、起こりうるすべての最悪のことを考え、トレーニングすること。
天気が急変しても大丈夫な知識と体力、滑落した時の判断力、パートナーに何かあった時の対応力、思っている以上に悪いホールドで耐える力,
プロテクションが取れないときのランナウトに耐える精神力・・・・・・。
その人は残っている人にも、最悪のことを考えておくように、とも言っていた。
自分が帰らなかったときの事を。
取り乱さないために。

そしていざ、そのルートに取り付いた時には決してマイナスな感情を出さないこと。登ることだけ、登れることだけを意識するんだって。
だめかも・・・なんてかけらにも思っちゃいけない。

その人は今は山に行っていない。もう行かないそうだ。

以前は山に行かなくなったことに、私は憤慨していた。なんとかしてもう一度引っ張り出そうと思ってた。
でも最近不思議なことにその人とは前より山の話をしている。

つい最近、直接面識は無かったが、山で知人が事故で亡くなった。
ZCCの中にもよく一緒に登っていたメンバーがいて、その人たちが悲しむのを間近で見た。
なぜ山に行くのか、みんな悲しみながら自問自答し、自分なりの回答を出し、また山に向かっている。

今なら私の友人がなぜ山に行かなくなったのか、何となくわかるような気がしている。

その人は山で仲間を失ったことも、遭難者を救出したことも、血の匂いの中で死体の回収をしたこともあるという。

どこかでいつも逃げたかったんじゃないのかなぁ、あの緊張感から。
山の魅力にも未練は残しつつ・・・。

私は幸いにも仲間を失う悲劇をまだ知らない。

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